昇華印刷とは

昇華印刷の仕組みと特徴

昇華印刷とは、専用の特殊インクを専用紙に印刷し、高温高圧でプレスすることにより、ポリエステルで構成されている生地などに染色させる印刷法です。ポリエステルで構成され、高温に耐えられるものであれば、様々な物に転写印刷することが出来ます。代表的な製品は、衣類、マグカップ、タイル、ガラス、金属など多数ありますが、最も多い製品はやはり生地物になります。街中でよく見かける幟(のぼり)旗は、そのほとんどが昇華印刷法により製作されています。近年では、サッカー、バレーボール、自転車競技など、様々なスポーツウエアの印刷が昇華印刷により製作されています。その理由は、縫製前の生地であれば、全面に印刷することが可能であり、1枚ごとに印刷する工程のため、ゼッケンのように1着毎に印刷内容が異なる仕様にも対応できるメリットがあります。

彩度はよく明度に弱い_トーンジャンプにご留意ください

当社の昇華インクは、非常に発色がよく、特に彩度は元データより鮮やか目に仕上がります。

反面、明度の表現は苦手です。特にトーンジャンプを起こしやすいため、微妙なグラデーションや、%指定の低いカラーは正確に再現しない場合があります。家庭にあるインクジェットプリンターでも、メーカーが異なれば、印刷の仕上がりが異なるのと同じ理屈です。それが、どの程度の結果になるか実験をしておりますので公開いたします。データ作成時の参考にしていただければ幸いです。

CMYKのインク濃度印刷検証

シアン・マゼンダ・イエロー・ブラックにおいて、10%刻みで印刷した場合の表現結果を検証してみました。左が元データで、右が印刷結果です。画像クリックで拡大します

ブラックについては、30%から上の階調表現は良好ですが、20%から下になると一気に白くなります。一桁台から十数%の領域はトーンジャンプしますので、ベタなどの広範囲の使用は控えた方が良いでしょう。また、今回実験しておりませんが、85%〜95%までの範囲はほとんど差が出ません。そのため、グレースケールを多用したデザインの場合は、全面真っ黒ということにもなりかねません。グレースケールの使用は慎重にお願いいたします。

シアンについては、50%から上の階調は、ほぼデータに忠実に再現されていますが、40%から下はいきなり白っぽくなり、特に一桁台の階調表現は不可能であることが判ります。また、20%から50%までの階調が滑らかではないのが判ります。インクが気化した後、定着するという昇華印刷の宿命です。

マゼンダも、シアン同様の結果となっています。色は出るのですが、階調表現が厳しいのが判ります

イエローは最も厳しい結果になっています。シアン、マゼンダ同様に一桁台の階調は出ていませんが、上も厳しく、50%を超えるといきなりトーンジャンプしています。60%以上の階調が出ないことから、イエローと混合で作られるカラーについては、トーンジャンプが出ますので要注意です。例えばマゼンダとイエローで作られるレッド系や、シアンとイエローの組み合わせのグリーン系などで、トーンジャンプが出やすいので要注意です。

ドットゲイン印刷検証

ドットゲインとは、データ上の柄のサイズが、印刷後に広がってしまう現象をいいます。オフセット印刷では、印圧がかかることにより網点などが太くなり、データと比較して濃く見えるという現象が起きます。昇華印刷の場合は、インクが高熱により気化し、それがメディアに移行(転写)する際に、気体状のインクが発散しドットゲインが発生します。オフセットのドットゲインとは反対に、抜き文字や細い線、細かな点などに顕著な症状が現れます。そこで、どの程度抜き文字が潰れてしまうかを実験しましたので公開いたします。

実験は黒ベタで行いましたが、全ての色で発生します。ドットゲインは必ず発生しますので、データを作成する場合は、抜き文字のサイズや字体、線の太さ、点のサイズなどに十分配慮してください。ドットゲイン回避の目安ですが、実際に作業してみる以外にありません。そのため、ドットゲインの懸念が強いデザインの場合は、事前に試作校正を行うことを強くお勧めいたします。

抜き文字を入れる場合、明朝体は不利なのが判ります。またゴシック体でも細いウエイトはやはり不利です。

色校正における注意事項について

色校正の確認の際、上記の通り、元データより確実に彩度が高めに出ます。そのため明度調整をされる方がおりますが、明度ではなく彩度の調整が必要です。
全体的に鮮やか目(濃い目)に見えるために、安易に全体の明るさを調整してしまいがちです。ところが、実際に特定の色域が強く出るために濃く見えますので、元データーに対して濃いと感じた場合は、全体の明度を下げるのではなく、特に気になるカラーの彩度を調整しなくてはなりません。単に明度を下げる処理をしてしまうと、薄い色域がトーンジャンプにより消滅してしまったり、本来の黒い部分がグレーになったりという弊害が発生します。
なお、実際にどの色をどの程度変えるのかは、勘しかありません。明確な指標がないのが現実です。これが昇華印刷の特徴ですので、あらかじめ承知して頂く必要があります。

フォトショップの場合、個別のカラーごとに彩度の調整が必要です

カラー再現の減少について

昇華印刷の仕上がりは、ポリエステルの含有量に左右されます。当社で採用のクロスは、ポリエステル含有量80%ですので、昇華インクの発色は、データ上の色合いを100%とすると80%に低減します。K100→K80というように、単純に80%まで低減するわけではありませんが、データ上の100%を完全再現することはありません。そのため、厳密にある程度の色再現が必要な場合は、必ず試作(色校正)を取ってから本番製作を行って下さい。

色合いのバラツキについて

昇華印刷は、直接印刷ではなく間接印刷になります。そのため、施工日の気温や湿度、印刷物のポリエステル含有量など様々な要因により影響を受けます。そのため、わずかながら仕上がりにバラツキが発生します。これは物理的な現象ですので対処法がありません。多少のバラツキはあるという認識であらかじめご了承ください。なお、目に余るような違いが出た場合は、検品の際に落としております。

前述の通り、昇華印刷は、データ上のカラーと仕上がりのカラーに差が出ます。その差を調整するのは勘頼りです。そのため勘頼り低減のため、カラー出力見本をご提供いたします。ただし、一定の条件がございますのでご了承願います。

ポリエステルの熱反応問題:黒点化について

昇華インクはポリエステルにのみ反応するインクですが、200℃という高温で処理するため、ポリエステルが熱化学反応を起こし、黒い点が生じます。この黒点は少量で微細の場合もありますが、激しく広範囲に発生することもあります。激しく出た場合は検品にて落としますが、微細な場合は通過させます。つまり大なり小なり黒点が発生しますので、あらかじめご了承ください。微細な黒点につきましてはノークレームとさせて頂いております。

このような直径、数ミクロン程度の黒点が無数に出る場合がありますが、その場合は検品で落とします。ただし、この画像のように数個である場合は通すことがあります。パッと見、目障りかどうかで判断しています。